30号 海外レポート

デンマーク工科大学に滞在して

 

西原 直枝

早稲田大学創造理工学部・日本学術振興会特別研究員

 


はじめに
日本学術振興会の若手研究者海外派遣事業により、3カ月という短期間であるが、デンマーク工科大学 室内環境・エネルギー国際研究所International centre for indoor environment and energy(ICIEE)に滞在し、研究活動を行った。
海外派遣事業に応募していたものの、4歳の娘を連れて、海外に行くのは実現可能なのかと、若干の迷いもあった。そのような時、福岡での平成21年度被服衛生学セミナーにて、先生方の海外留学報告を伺うことができ勇気をいただいた。御礼の意味もこめて、レポートをかいてみたいと思う。

デンマーク工科大学ICIEE
デンマーク工科大学ICIEEは、コペンハーゲン郊外にある。省エネルギーかつ快適な室内環境に関する国際研究所(所長:Olesen教授)であり、デンマークだけでなく、ヨーロッパ、アメリカ、アジア各国から、研究者や留学生が集まる国際的な研究所となっている。
省エネルギーの問題を解決する際、人間の生活の質も維持・向上することが重要である。人間の快適性、健康性、生産性を損ねないことを主眼におき、室内環境を形成する空調設備、被服および建築などの研究がおこなわれている。
人工気候室やサーマルマネキンなどの研究設備も整っており、熱的快適性、室内空気質、個別空調等の研究や教育活動を行っている。

研究内容
1.2004年(6年前)の滞在時
実は、さかのぼること6年前、2004年の1月から3月に、2カ月半という短い時間だったが、デンマーク工科大学に滞在する機会があった。当時、デンマーク工科大学では、室内空気質が知的生産性に与える影響について先進的に研究が行われていた。一方、私は、温熱環境と知的生産性の関係について、とくに疲労や脳内酸素代謝などの人体反応に着目して研究をしており、国際会議で発表していた。それがきっかけで、共同研究をすることで、人体反応に着目した評価方法を、デンマークで行っている実験に適用してやってみよう、ということになったのだ。
今は亡きFanger教授が、私にも椅子をすすめ、ゆったりとした雰囲気の中で研究計画を聞いて下さり、大きな視点からのアドバイスを頂いたことが特に想い出に残っている。
このプロジェクトでは、Wyon教授、Wargocki博士の二人のスーパーバイザーに加え、担当の修士の学生を二人もつけてくださり、英語に苦労しながらも、研究三昧をすることができた。
デンマーク人は大体4時か5時になると男性も女性も、仕事を終えて家庭へと戻っていくのだが、私は平日だけでなく土曜日も研究室にいき、夜も10時すぎまで研究室にいた。デンマークらしからぬ生活だと笑われるほどだった。おかげで、短期間の滞在ながら、女性24名を用いた被験者実験を行い、作業成績、疲労、脳内酸素代謝の関係について調べることができた。脳内酸素代謝が疲労や精神的努力の指標となることを確認し、成果を、国際会議Indoor Air2005にて発表した。

図1 被験者実験風景
2.2010年の滞在時
このように、一定の成果を挙げたものの、室内空気質との関係を明確に議論する為には、脳内酸素代謝を用いた評価手法の精度向上、作業成績との関連、および、デンマーク工科大学のグループで得られているほかの研究結果との相違点に関する考察等、まだまだ、いくつかの課題が残っていた。その後、出産し、日々の仕事を行うだけで精いっぱいとなり、2004年の研究で明らかになった課題をなかなか解決できないままでいた。これが、ずっと小骨がのどに刺さったような感じで、気にかかっていた。
そのような中、若手研究者を海外へという事業があることを知った。子育てとの両立とも悩みつつも、もういちど行きたい、と応募したのだった。
今回は、娘を保育園に送迎したりしながらの滞在なので、6年前のような、朝から晩までという取り組みはできなかった。しかし、その分、デンマーク人の生活ペースの中で、じっくりとデータに向き合い、受け入れ研究者と議論をすることができた。
最大の成果は、デンマーク工科大学のグループで得られているほかの研究結果との相違点に関し、様々な方向からデータ解析、考察を深め、議論をし、査読論文への投稿準備を進めようという合意ができたことである。論文の背景にある考え方を知ることができ、こちらの考え方も伝え、データを一緒に検討することができたことは大きな収穫であった。投稿までにはまだまだ道のりがあるが、これは、私にとっては大きな一歩であった。

図2 デンマーク工科大学での研究発表

デンマークの気候と生活
最後にデンマークでの生活について述べたいと思う。デンマークの1月から3月は、春に向かう時期とはいえ、日が短く、暗い。とくにこの年の冬は例年にない寒波に襲われ、連日吹雪、氷点下の厳しい気候だった。スノースーツやスノーブーツなど、暖かい服を買い込んで準備したが、それでも外にいると寒さに凍えた。
娘の通う保育園では、どんな悪天候でも最低1時間は外遊びをする、ということが国の指針により、決められていた。日照時間が少ないため、うつ状態になりやすいことへの対策とのことだった が、どうやら、その外遊びの時間が、娘にとって苦しい時間だったようだ。言葉がわからないことに加えて、寒い、風が強い、暗い、という自然環境が追い打ちをかけた。高熱の出る病気にもなり、さびしい気持ちが募ってしまったようだ。冬に、いかに家や空調、衣服の工夫で、暖かく快適に、健康に、そして心くつろげる空間を得ることができるのか、そのような研究がデンマークで盛んに行われ、この分野をリードしている理由が、身にしみてわかる気がした。
娘は、最初がんばって保育園に通っていたが、ある日、保育園の門がみえるところでぱったりと足をとめ、その日以降、どんなにがんばっても行かなくなってしまった。私も、短い滞在期間で、研究に穴をあけることはできないため、悩んだ末、私の母にデンマークまで来てもらい、日中は、母に娘をみてもらうこととなった。母は、「海外で生活するのが夢だったのよ」と明るく言ってくれたが、家族に負担をかけながらの滞在であったことは確かである。
子ども連れで大変だったものの、一方でデンマークでの生活をよく知ることができた。ホストファミリーのお宅の一室を間借りし、食事をはじめ生活時間の多くを一緒にすごした。特にホストファミリーのお子さんと娘は、年も近く、兄弟のように毎日遊んでいた。娘はデンマークの伝統的な遊びや子どものお祭りなども楽しんだ。健康で無事に帰国でき、終わり良ければ全てよしで、やはり行けて良かったと思っている。

図3 スノースーツを着て雪遊び
謝辞
関係者各位に心より御礼申し上げます。本研究滞在は、日本学術振興会 平成22年度 優秀若手研究者海外派遣事業によるものである。

<連絡先>
〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
早稲田大学創造理工学部建築学科田辺研究室
西原 直枝
電話:03-5292-5083 FAX:03-5292-5084
eメール: nishihara@tanabe.arch.waseda.ac.jp

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