24巻 海外レポート

【24巻 海外レポート】

アメリカ研究生活雑感

 

新潟大学・教育人間科学部 鋤柄 佐千子

 

 平成14年11月から9ヶ月間、文部科学省の在外研究員としてアメリカ、ペンシルバニア州PhiladelphiaにあるDrexel大学のMaterial Engineeringというところで研究生活を送る機会をいただいた。在外研究員の申請書類を書く段階で、何をテーマに研究をしようか迷ったあげくに自分で決めたことは、「今までとは違う分野のことに挑戦してみよう」ということだった。わたしが学生時代から勉強してきたのは、被服材料の性能評価である。40代に入り、普通なら多少なりともその分野の専門家になっていてもいい年代になって、自分を見返ると自信のもてるものは何もない。そんな気持ちから、この機会にもう一度大学院生のように勉強してみようと思い渡米した。したがって、今回、海外レポートを依頼されても被服衛生学に関する情報をわたしが読者に提供できるわけもないので、その点は許していただきたい。

 

 日本を出発し、フィラデルフィア空港に到着後、大学へ直行しすぐ研究打ち合わせが始まった。テーマは、エレクトロスピニング法による絹フィブロインからナノファイバーを作製することだった。化学、医学の分野からきた新しいPhDの学生2人とわたしを含め3人で研究を進めることになった。大学のシステムがわからないわたしにとってチームで研究を進めるようにしてくださった受け入れ側の、Ko教授の配慮に感謝している。Ko先生のグループでは毎週成果をグループのミーティングで報告することがきまりで、わたしもローテーションに組み込まれた。いっしょに実験をした2人の大学院生(ナイジェリアとインドからの男子留学生)は自分の主張をはっきり持っており、研究に対する情報収集などとても積極的で、指導教員まかせではないことに好感がもてた。バックグラウンドの異なる3人で議論をし、ときにはぶつかることもあったが、とにかく協力して研究をすることが次第に喜びとなりそれが研究成果につながったと思っている。

 

 滞在先のドレクセル大学は、アメリカ、アイビーリーグに属するような有名大学ではなく、前身は工学部中心の大学であったが、MBAや文系の学部、さらにここ5年で、単科の医科大学を併合して医学部、薬学部をつくり、現在はナノテクノロジーとバイオ関係に力をいれている私立大学である。キャンパスの隣が、有名なペンシルバニア大学なので、共同研究をしているプロジェクトも多い。仕事をやめなくても修士がとれることを宣伝しており、大学院の授業は夕方6時から9時に行われることが多い。また、四期制をとっているので、10週でⅠタームとなり学生も教員もかなり忙しい。5年前から大学行事に”Research Day” がもうけられ、四年生、大学院生、Post Docが研究成果を一同に発表する。体育館に500以上のポスターがはられ、各ポスターに2人の審査員が審査にまわり学生に質問をする。文系の学部のなかには、創作劇や創作ダンス、映画をつくり発表しているグループもあった。部門ごとに、優秀な学生は表彰され賞金が与えられる。またパテントとして有望とみられる研究が選ばれ、それには大学が助成する。これも大学の質をあげようという試みの1貫だということで、わたしも大学院生といっしょにポスター発表をさせてもらった。このもよおし、最後は発表者全員に一応コースの夕食を無料でふるまうのだから驚きである。

 

 ここでは研究費は研究者が自分でとってくるもの、研究費の豊富な研究室にポストドクや院生が多く集まり、彼等が研究をささえている。日本の国立大学も独立行政法人となり、アメリカの後を追っているのかと思うと身のひきしまる思いだった。

 

 新潟大学に赴任して15年あまり、大学院のない教育学部の生活科学科で教育、研究を続けてきた自分にとって、この9ヶ月は昔オーストラリア、シドニーでPhDの1年生をしたときにもどったような生活を送ることができた。治安の心配と便利さからInternational Houseという大学から歩いて15分のところにある学生主体の寮に住んだため、生活は快適とはいえず、アメリカ生活を楽しむという心の余裕もなかった。それでも、自分でたてた目的にむかって研究でき、それを論文にまとめ学会発表もさせていただいたことがわたしに満足感を与えてくれた。そして、Thanks givingは、International Houseのプログラムで知り合ったアメリカ人の家庭ですごし、その後もその家族がクリスマス、イースターと家族が集まる時には必ずわたしを招待してくださったので、ひとりでこれらの日を過ごすことはなかったのは幸運だった。

 

 実験が一段落した後、せっかくの機会なので、東部の繊維関係の主な大学を訪問した。North Carolina State University, Georgia Tech, Clemson University, Philadelphia Universityである。Ko教授から紹介していただいた教授にメールで連絡し、自分の専門や何がみたいかを伝える。パソコンのなかには、自分が学会発表で使ったパワーポイントのファイルを持ち歩き説明の助けにしていた。どこも、繊維関係の学部は縮小傾向で、残念ながら多分野への転向を思慮している。

わたしは、若い研究者の方々が目標を持って海外で活躍して下さることに期待している。若いときは、はじめからひとを頼るのではなく、自分でできる限りの努力をすることが大切だと感じている。また短期間で仕事をするためには、受け入れ側の教授と親交があり、事前の打ち合わせができている方が望ましい。そして何より、そこで何がしたいかという明確な目的が必要である。海外生活中はいろいろな問題に遭遇する。そんな時、まわりの方々の助けが必要になるので、滞在中はむこうのグループの1員となってお互い協力することが大切だと思う。アメリカは住む地域によって事情が全く異なる。Philadelphiaは、以前に比べ治安がよくなったとはいえ、スラムも低所得者も大勢いる。Ko教授から、「1ststreetから 40th streetまではひとりで歩いてもいいけれどその先は行かないように。」といわれた。地下鉄に乗れば、ほとんど黒人で車両に黒い髪の女性はわたしひとりのこともある。大学の周りは、深夜まで学生の送迎バスがはしり、警備員も多いが、夜おそくひとり歩きはできない。自分の行動は、自分で責任を持たなければいけない。そして海外生活には語学力は必須であるので、機会あるごとに語学力は磨いていかなければと自分自身の反省もふくめ感じている。

Fibrous Material Research Group, Drexel University, ACS Annual Meeting NY September 2003

関連記事

  1. 部会誌35号庶務報告

  2. 25巻 巻頭言-被服衛生学の必要性

  3. 第21回 日本家政学会被服衛生学部会 夏季セミナーのご報告とプログラム…

  4. 部会誌35号海外レポート

  5. 第31号 海外レポート

  6. 26巻 著書紹介

  7. 第31号 総説 

  8. 23巻 海外レポート

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。