第28回被服衛生学セミナー報告

第28回被服衛生学セミナー報告
~ 日韓学術交流:被服衛生学における生理学の役割 ~

深沢太香子1,3),栃原 裕2)

1) 福岡女子大学 人間環境学部,2) 九州大学大学院 芸術工学研究院,3)京都教育大学 教育学部

1.はじめに
日本家政学会被服衛生学部会では,健康で快適かつ安全な衣生活の向上に貢献することを目的とした基礎研究や実学的研究が盛んに行われています.その研究手法や関連の見識を深める機会として,年に一度,セミナーを開催しています.
平成21年度(2009年度)の第28回被服衛生学セミナーの開催は,九州地区が担当し,福岡市にて2009年8月28日(金)から29日(土)に開催(会場:KKRホテル博多)されましたので, 以下のとおり,報告いたします.

2.本セミナーの目的と総合テーマ
福岡市は,アジアゲートウェイとして国際的交通機関が発展しています.そこで,この地理的メリットを活かして,第28回被服衛生学セミナーでは,日韓学術交流を行うこととしました.
セミナーでは,生理学および被服衛生学の分野における最先端の研究成果から新しい知見を得たり,活発な議論をとおして,両国における被服衛生学の更なる発展をともに目指すことを目的としました.そこで,本セミナーの総合テーマには,「日韓学術交流:被服衛生学における生理学の役割」とすることとしました.

3.セミナーの構成と内容
1)セミナーの構成
本セミナーの構成を表1に示します.本セミナーは,第一線で活躍されている日韓の研究者による3つの特別講演と,日本人研究者による在外研究報告2件,日韓の研究者による研究発表12件より構成されました.そして,オプションとして,九州大学大学院 芸術工学研究院の所有する世界有数の実験施設の見学会を設けました.
なお,プログラムは要旨集に掲載されていますので,本稿では,割愛させていただきます.
2)特別講演および発表の内容
a)特別講演
特別講演では,被服衛生学や生理学分野において世界的に活躍されている3名の研究者を講師として,ご講演いただきました.
特別講演1では,ヒトの生理・心理反応を防護服設計に反映する手法について,事例研究とともに,金熙恩 教授(韓国 慶北大学校)よりお話いただきました.被服衛生学による実社会への貢献性の高さを改めて認識したご講演でした.
続いて特別講演2(図 1)では,崔正和 教授(韓国 ソウル大学校)より,衣生活が健康の維持と増進に繋がることを客観的データとともに示していただきました.日常生活から衣服を切り離すことは不可能に近いだけに,衣服の役割とその重要性について,一般にも広くかつ正しく理解してもらうことが今後の被服衛生学に科せられた課題の一つであろうと痛感しました.
特別講演3において,安河内朗 教授(九州大学大学院)より,人工環境下で生活することに起因するヒトの”潜在的な緊張”の評価法をご教示いただくとともに,その具体例として,人工的な光環境がヒトの適応能に及ぼす影響についてご講演いただきました.
b)海外研究報告
ネットーワーク環境の充実化に伴い,海外との共同研究が激増している近年,被服衛生部会会員の関心も海外に向けられてきています.そこで,海外留学報告では,在外研究からご帰国されたばかりの薩本弥生 准教授(横浜国立大学)と小柴朋子 教授(文化女子大学)より,準備から帰国までの流れと,留学先での研究成果についてお話しいただきました.留学手続きのノウハウをはじめ,異国での研究活動と生活のバランスを維持するコツなど,非常に役立つ情報を提供していただきました.
c)研究発表
研究発表では,留学を含め韓国からは3件,日本からは9件の,計12件の研究成果が発表されました.それらの内容は,被服の着用意義を生理学的に評価したものから,体温調節系,温熱的快適性評価,衣服による心身の健康維持や作業能の向上,靴や防護服設計に至り,被服衛生学の発展に貢献する知見はもとより,関連の学術分野や実社会への貢献も期待できるものでした.
質疑応答(図 2と図3)では,各研究発表に対して,厳しくも温かく,非常に示唆に富んだ議論が交わされました.このような活発な議論は,発表者にとって,考察をより深めて,研究を発展させる有益な機会であったと確信しています.
3)懇親会
セミナー第一日目の夜には,恒例の懇親会が,同会場にて催されました.美味しいお料理を片手に,国や産官学などの立場を超えて親交を深めたり(図 4から図6),日韓の学生同士の交流も深めることができました.この日韓の親交が,共同研究などに発展するきっかけになれば幸いです.
4)オプショナル見学会
二日間に渡るセミナー閉会後,九州大学大学院芸術工学研究院の所有する「環境適応研究実験施設」と「居住空間実験施設」の見学会を開催しました.
「環境適応研究実験施設」は,ヒトの環境適応能を実験的に検討することによって,健康で安全・快適な生活環境や製品のあるべき条件を明らかにすることを目的とした実験施設です.ヒトの生理・心理反応に及ぼす様々な要因を検討するために,気圧,温度,湿度,気流,照度,水圧等を広範囲に制御できる人工気候室が7室も備えられた世界最大規模の実験施設です.国際的にも中核的研究施設で行われている最先端の研究を,間近にして,参加者にとって大変良い刺激になったことと思われます.
住宅内における日常動作や実生活における生理反応を測定するために建設されたのが「居住空間実験施設」です.充実した三次元動作測定システムを用いて,浴槽高さが動作に関する実験のデモンストレーションを行っていただきました.

4.おわりに
本セミナーでは,被服衛生学に関する研究について,日韓の研究者によって活発な議論が交わされ,さらには親睦も深めることができ,その目的である日韓の学術的交流は達成されたものと思われます.これは,九州という遠方での開催にも関わらず,本セミナーには59名,オプショナル見学会には36名という,多くの方にご参加いただいたお陰です.そして,特別講演,在外研究報告,研究発表や座長をご快諾くださいました方々にも,厚く御礼申し上げます.

最後に,本セミナー開催に際して,企画から運営までご尽力くださいました実行委員の先生方ならびに,セミナーおよびオプショナル見学会の準備と運営にご協力くださいました九州大学大学院 芸術工学研究院 助教 石橋 圭太 先生(現 千葉大学 准教授),技官 藤原 睦弘 氏をはじめスタッフの皆様に,ここに記して謝意を表します.

<連絡先>
〒612-8522 京都市伏見区深草藤森町1番地
京都教育大学 教育学部 深沢 太香子
電話・FAX:075-644-8318
e-mail: fukazawa@kyokyo-u.ac.jp

〒815-8540 福岡市南区塩原4-9-1
九州大学大学院 芸術工学研究院 栃原 裕
電話・FAX:092-553-4522
e-mail: tochi@design.kyushu-u.ac.jp

関連記事

  1. 第26回 日本家政学会被服衛生学部会 夏季セミナーのご案内

  2. 第29回被服衛生学部会夏季セミナー案内(第2報)

  3. 部会誌

  4. 26巻 大学院生の声

  5. 部会誌35号表紙

  6. 23巻 部会からのお知らせ

  7. 24巻 研究室紹介-富山大学教育学部被服学研究室

  8. 部会誌35号投稿要領

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。